結界師 土地神。 結界師の登場人物

異能者&妖など結界師登場人物

結界師 土地神

またもや『結界師』で良時です。 ありがとうございます。 勿論、それを決断し実行したのは彼自身だ。 それでも、背負うべき罪はこちらにある。 どんな理由があれど、土地神殺しは大罪だ。 [chapter:ねがいを叶えて] あと半月もすれば今年も終わりを迎える。 そんな頃、良守は眉間に皺を寄せながらカレンダーを睨みつけていた。 「ああ、くっそう! なんかいい方法ねぇーかなぁー!?」 ガシガシと乱暴に頭を掻きむしる彼の視線は、ある日付に固定されていた。 例に漏れることなく、彼も想い人である時音と一緒に過ごしたいという願望があった。 だが、自分と彼女は当たり前のようにその日を過ごせるような間柄ではない。 良守は幼い頃からお隣さんである時音に特別な感情を抱いていたが、対して彼女の方はこれっぽっちも彼を意識していないのだ。 せいぜいが手の掛かる弟ぐらいの認識だろう。 泣き虫で甘ったれだった子供時代の自分は、いつも彼女に手を引いてもらっていた。 それを思えば、仕方がないのかもしれない。 けれど、良守だっていつまでも子供のままではないのだ。 ただの幼なじみではなくて。 今とは違った関係性を彼女と築きたいと思ってしまう。 「はぁー……、やっぱ当たって砕けるしかねーか? ……いや、砕けちゃダメだろ」 自分で自分に突っ込みを入れながら、良守は深いため息をついた。 烏森を封印して以来、墨村と雪村の溝も少しずつ埋まっていき、両家の関係もだいぶ改善されてきた。 時々ではあるが、互いの家を行き来するようになったし、双方の家族との折り合いも決して悪くはない、と思う。 朝夕の登下校だって、彼女に出会えれば一緒に並んで歩くこともある。 ひと昔前ならば、到底考えられないような恵まれた状況だ。 全力で逃げられていた頃を思えばかなりの進歩ではあるが、でも、もっともっと彼女との距離を縮めたい。 烏森での夜の勤めも無くなり、校舎が倒壊したことによって通う学校も違うため、良守が時音に会える機会は格段に減ってしまったのだから。 「……こうなったら真正面から行くしかねーな……っ!」 良守は強い決意を胸に秘め、グッと拳を握りしめた。 [newpage] 授業を終えた時音は、友人のまどかと他愛のない話をしながら正門へと向かっていた。 「……ねぇ、時音。 あれ、良守君じゃない?」 「え?」 まどかの言葉に視線を向けると、校門の門扉にもたれかかる良守の姿があった。 何か悩み事でもあるのか、彼にしては珍しく難しい顔をしている。 「……良守?」 時音が怪訝そうに声を掛けると、彼女に気付いた良守が弾かれたように顔を上げた。 「あ、時音! ……あ、あのさ? ちょっと、話があるんだけど……」 ひどく落ち着かない様子でソワソワする良守に、時音は首を傾げている。 しかし、隣にいたまどかは何かを察したようで、面白そうに口元を緩めた。 「ふふ。 時音、あたし先に帰るね?」 「えっ? ちょっと、まどかっ!?」 二の句を継がせない勢いで、満面の笑みを湛えたまどかが走り去っていく。 その後ろ姿を呆然と見送った時音が、ため息をついて良守へと振り返った。 このまま校門の前で騒いでいたら、変に悪目立ちをしてしまう。 「……話は歩きながらでいいでしょ? 行くよ」 それだけ言うと時音はスタスタと歩き出した。 良守は置いていかれないように大慌てで追いつくと、そのまま彼女の隣に並んだ。 黙々と歩きながら、時音は隣に並ぶ良守を窺い見る。 しばらくは彼が話し出すのを待っていたが、どうにもそんな気配はなさそうだ。 このままでは埒が明かない。 しびれを切らした時音は自分から口を開くことにした。 「で、話ってなに?」 先程と同じ台詞だが、どこか険が含まれいるのは時音が苛立っているからだろう。 元来、彼女は気が長い方ではないのだ。 「え、えーとさ……。 「いや、せっかくだからっ! ……その、お前が好きなの作るし、だからっ! クリスマスにさ、一緒にケーキ食わねっ?!」 勢いに任せて言い切った良守は、顔を真っ赤にさせながら時音を見つめている。 呆気にとられていた彼女は、我に返ると冷静に言葉を返した。 「……あたし、その日は仕事だよ? 結界師の」 「へ? で、でも、俺んとこはなにも聞いてないぞ……?」 「そりゃそうでしょ。 幸いにも彼女は土地神に気に入られているようで、異界の調整も順調に進んでいる。 「んだよー……七郎のとこかよ。 なら俺も行く」 「ダメ。 あんたがいると気が散るから。 それに……あんた、まほら様に嫌われてるっぽいし」 「んなー!!? な、なんでだよっ?! 俺が一体なにをしたって言うんだよ……?」 時音の言葉にかなりの衝撃を受けたようで、良守はガックリと肩を落とした。 確かに、力を持った土地神から訳も分からず嫌われるのは気分の良いことではないだろう。 可哀想なまでに打ちひしがれる良守の姿に、時音はそっと苦笑した。 「ケーキ。 あんたが作ってくれるんでしょ? 多分、夕方前には帰れると思うからさ……その後ならいいよ?」 絶望的な状況でほぼ諦めていた良守にとって、それは思わぬ返事だった。 先程までの落ち込みようが嘘のように、顔を輝かせている。 その、あまりの豹変っぷりが可笑しくて、時音も釣られるように笑顔を浮かべた。 [newpage] 風使いである扇一族の本家が居を構える嵐座木の地。 「お疲れさま。 ……なんか疲労感漂ってるけど、大丈夫? 雪村さん」 気遣うように言葉を掛けられて、時音はゆっくりと振り向く。 そこには、すっかり顔馴染みとなった、家督を譲られたばかりの若き当主である扇七郎がいた。 「平気よ。 ただ、今日はまほら様のご機嫌が良くなかったみたいで、ずいぶんと時間が掛かっちゃったけど」 「ふーん? 珍しいね、君はまほら様のお気に入りなのに」 きょとんと首を傾げる七郎に、時音は複雑な気持ちで微笑した。 まほら様が快適に過ごせるよう、定期的に異界の微調整をしてきたのだが、今日は何故か上手くいかなくて。 いつもなら、朝から始めて昼過ぎ頃には終わるような作業なのに、気が付けば既に辺りは暗くなっていた。 「まほら様の機嫌を損ねるような真似、した覚えないんだけどなぁ……」 御神木を見上げながら、時音は小さなため息をつく。 「まぁ、神様は気まぐれなものだからね。 そういう日もあるよ」 慰めの言葉を聞きながら、時音が一歩踏み出そうとしたその時、くらりと眩暈に襲われた。 ゆらりと傾く彼女の体を、七郎が咄嗟に受け止める。 「ごめんなさい。 ……ありがとう」 七郎の手を借りて体勢を立て直すと、時音はお礼の言葉を口にした。 異界に手を入れるのはかなり神経を使う。 今日は長丁場だったので、彼女が思った以上に体力を消耗していたようだ。 「いや、これぐらい別にいいけど。 それよりも、少し休んでいったら? もう遅い時間だし、君さえよければ食事ぐらい用意させるよ?」 「いえ、お構いなく。 それに、今日は早く帰りたいから……」 「そう? そんなに急いでるなら、いっそ僕が送ろうか?」 人の良さそうな笑顔を浮かべて、七郎が手を差し伸べる。 その手をじっと見つめて時音は逡巡した。 下手に関わらない方がいいに決まっている。 けれど、約束の時間はとっくに過ぎていた。 こんなに遅くなってしまって、きっと良守は心配しているだろう。 一刻も早く帰りたいという思いが彼女の心を迷わせた。 「時音っ!」 耳に馴染んだ声が、彼女の名を呼んだ。 まさかと思いながら声がした方へ視線を向ける。 七郎のお付きである紫島に連れられた良守が、猛ダッシュで時音へと駆け寄った。 「良守? なんで……?」 「だってお前、全然帰ってこないし。 しかも、連絡だって取れないし。 「仕事は終わったんだろ? 時音は連れて帰るからな」 「こら、良守っ! あんた、なんでそんな言い方するの!? ごめんね、七郎君。 今日はあたしが未熟なせいで迷惑を掛けちゃって」 良守の不躾な態度を諌めつつ、まるで保護者のように時音が謝罪すると、七郎は面白そうに笑った。 「迷惑なんてとんでもない。 それに、雪村さんは優秀な術者だよ。 本気でウチに引き抜きたいぐらいだ」 その言葉に驚いて時音は目を丸くさせた。 しれっと爆弾発言をする七郎に良守が噛みつく。 「んなっ!? てめぇ、ふざけんな!! 時音はやらねーからなっ!!!」 「いや、君には聞いてないし。 彼女が結界師として有能なのは本当のことだろう? 空間支配系能力者の中でも君達の能力は稀なんだ。 是非とも扇家の専属になってもらいたい」 彼特有の軽い口調だが、彼女へと向けられた瞳は真剣だ。 七郎の本気が窺えて、緊迫した空気が流れる。 その眼差しを真摯に受け止めて、時音は静かに話し始めた。 勿論、それを決断し実行したのは彼自身だ。 それでも、背負うべき罪はこちらにある。 どんな理由があれど、土地神殺しは大罪だ。 例えそれが、公にされず罪に問われなかったとしても。 決して赦されることではない。 「……あたしへの高い評価も、過分だとは思うけど、素直に嬉しいです。 出来ることなら、あなたの力になりたいと思っています。 でも、」 「でも?」 「そのお話はお断りさせて頂きます。 隣に並ぶ良守が心配そうに様子を窺う。 そんな彼に向かって、彼女は安心させるように鮮やかな笑顔を見せた。 長年同じ土地を守ってきた墨村と雪村の結界師。 その正統継承者である二人の間には、やはり特別な絆があるようだ。 七郎は諦めに似たため息をついた。 「……紫島。 二人を送ってあげて」 自分の従者に指示を出すと、彼は風を纏って一気に舞い上がった。 上空から地上を眺めると、良守と時音は寄り添うようにこちらを見上げている。 (なるほど。 だから、まほら様は彼のことが気に入らないんだな) 土地神の機嫌の悪さを察して、七郎は苦笑した。 「お二人とも、私が責任を持ってお送りしますので、どうぞこちらへ……」 そう言って、主人の命を忠実に守る紫島が残された良守と時音を促す。 七郎もどこかへ行ってしまったし、ここで彼を待ち続ける理由もないので、二人は大人しく紫島の案内に従った。 「……ねぇ、良守。 結局どんなケーキ作ったの?」 ふと、思い出したように時音が訊ねると、良守はニヤリと得意そうな笑みを浮かべた。 「内緒。 それは見てのお楽しみ」 「ふーん? ま、いいわ。 あんたの作るケーキ、美味しいから楽しみ。 ね、早く帰ろう?」 連れ立って歩きながら時音が楽しそうに笑う。 その姿に、良守も嬉しそうに目を細めた。 去年までの、半ば強制的に烏森で過ごした夜とは全然違う。 今年は望んで一緒にいる。

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結界師とは (ケッカイシとは) [単語記事]

結界師 土地神

またもや『結界師』で良時です。 ありがとうございます。 勿論、それを決断し実行したのは彼自身だ。 それでも、背負うべき罪はこちらにある。 どんな理由があれど、土地神殺しは大罪だ。 [chapter:ねがいを叶えて] あと半月もすれば今年も終わりを迎える。 そんな頃、良守は眉間に皺を寄せながらカレンダーを睨みつけていた。 「ああ、くっそう! なんかいい方法ねぇーかなぁー!?」 ガシガシと乱暴に頭を掻きむしる彼の視線は、ある日付に固定されていた。 例に漏れることなく、彼も想い人である時音と一緒に過ごしたいという願望があった。 だが、自分と彼女は当たり前のようにその日を過ごせるような間柄ではない。 良守は幼い頃からお隣さんである時音に特別な感情を抱いていたが、対して彼女の方はこれっぽっちも彼を意識していないのだ。 せいぜいが手の掛かる弟ぐらいの認識だろう。 泣き虫で甘ったれだった子供時代の自分は、いつも彼女に手を引いてもらっていた。 それを思えば、仕方がないのかもしれない。 けれど、良守だっていつまでも子供のままではないのだ。 ただの幼なじみではなくて。 今とは違った関係性を彼女と築きたいと思ってしまう。 「はぁー……、やっぱ当たって砕けるしかねーか? ……いや、砕けちゃダメだろ」 自分で自分に突っ込みを入れながら、良守は深いため息をついた。 烏森を封印して以来、墨村と雪村の溝も少しずつ埋まっていき、両家の関係もだいぶ改善されてきた。 時々ではあるが、互いの家を行き来するようになったし、双方の家族との折り合いも決して悪くはない、と思う。 朝夕の登下校だって、彼女に出会えれば一緒に並んで歩くこともある。 ひと昔前ならば、到底考えられないような恵まれた状況だ。 全力で逃げられていた頃を思えばかなりの進歩ではあるが、でも、もっともっと彼女との距離を縮めたい。 烏森での夜の勤めも無くなり、校舎が倒壊したことによって通う学校も違うため、良守が時音に会える機会は格段に減ってしまったのだから。 「……こうなったら真正面から行くしかねーな……っ!」 良守は強い決意を胸に秘め、グッと拳を握りしめた。 [newpage] 授業を終えた時音は、友人のまどかと他愛のない話をしながら正門へと向かっていた。 「……ねぇ、時音。 あれ、良守君じゃない?」 「え?」 まどかの言葉に視線を向けると、校門の門扉にもたれかかる良守の姿があった。 何か悩み事でもあるのか、彼にしては珍しく難しい顔をしている。 「……良守?」 時音が怪訝そうに声を掛けると、彼女に気付いた良守が弾かれたように顔を上げた。 「あ、時音! ……あ、あのさ? ちょっと、話があるんだけど……」 ひどく落ち着かない様子でソワソワする良守に、時音は首を傾げている。 しかし、隣にいたまどかは何かを察したようで、面白そうに口元を緩めた。 「ふふ。 時音、あたし先に帰るね?」 「えっ? ちょっと、まどかっ!?」 二の句を継がせない勢いで、満面の笑みを湛えたまどかが走り去っていく。 その後ろ姿を呆然と見送った時音が、ため息をついて良守へと振り返った。 このまま校門の前で騒いでいたら、変に悪目立ちをしてしまう。 「……話は歩きながらでいいでしょ? 行くよ」 それだけ言うと時音はスタスタと歩き出した。 良守は置いていかれないように大慌てで追いつくと、そのまま彼女の隣に並んだ。 黙々と歩きながら、時音は隣に並ぶ良守を窺い見る。 しばらくは彼が話し出すのを待っていたが、どうにもそんな気配はなさそうだ。 このままでは埒が明かない。 しびれを切らした時音は自分から口を開くことにした。 「で、話ってなに?」 先程と同じ台詞だが、どこか険が含まれいるのは時音が苛立っているからだろう。 元来、彼女は気が長い方ではないのだ。 「え、えーとさ……。 「いや、せっかくだからっ! ……その、お前が好きなの作るし、だからっ! クリスマスにさ、一緒にケーキ食わねっ?!」 勢いに任せて言い切った良守は、顔を真っ赤にさせながら時音を見つめている。 呆気にとられていた彼女は、我に返ると冷静に言葉を返した。 「……あたし、その日は仕事だよ? 結界師の」 「へ? で、でも、俺んとこはなにも聞いてないぞ……?」 「そりゃそうでしょ。 幸いにも彼女は土地神に気に入られているようで、異界の調整も順調に進んでいる。 「んだよー……七郎のとこかよ。 なら俺も行く」 「ダメ。 あんたがいると気が散るから。 それに……あんた、まほら様に嫌われてるっぽいし」 「んなー!!? な、なんでだよっ?! 俺が一体なにをしたって言うんだよ……?」 時音の言葉にかなりの衝撃を受けたようで、良守はガックリと肩を落とした。 確かに、力を持った土地神から訳も分からず嫌われるのは気分の良いことではないだろう。 可哀想なまでに打ちひしがれる良守の姿に、時音はそっと苦笑した。 「ケーキ。 あんたが作ってくれるんでしょ? 多分、夕方前には帰れると思うからさ……その後ならいいよ?」 絶望的な状況でほぼ諦めていた良守にとって、それは思わぬ返事だった。 先程までの落ち込みようが嘘のように、顔を輝かせている。 その、あまりの豹変っぷりが可笑しくて、時音も釣られるように笑顔を浮かべた。 [newpage] 風使いである扇一族の本家が居を構える嵐座木の地。 「お疲れさま。 ……なんか疲労感漂ってるけど、大丈夫? 雪村さん」 気遣うように言葉を掛けられて、時音はゆっくりと振り向く。 そこには、すっかり顔馴染みとなった、家督を譲られたばかりの若き当主である扇七郎がいた。 「平気よ。 ただ、今日はまほら様のご機嫌が良くなかったみたいで、ずいぶんと時間が掛かっちゃったけど」 「ふーん? 珍しいね、君はまほら様のお気に入りなのに」 きょとんと首を傾げる七郎に、時音は複雑な気持ちで微笑した。 まほら様が快適に過ごせるよう、定期的に異界の微調整をしてきたのだが、今日は何故か上手くいかなくて。 いつもなら、朝から始めて昼過ぎ頃には終わるような作業なのに、気が付けば既に辺りは暗くなっていた。 「まほら様の機嫌を損ねるような真似、した覚えないんだけどなぁ……」 御神木を見上げながら、時音は小さなため息をつく。 「まぁ、神様は気まぐれなものだからね。 そういう日もあるよ」 慰めの言葉を聞きながら、時音が一歩踏み出そうとしたその時、くらりと眩暈に襲われた。 ゆらりと傾く彼女の体を、七郎が咄嗟に受け止める。 「ごめんなさい。 ……ありがとう」 七郎の手を借りて体勢を立て直すと、時音はお礼の言葉を口にした。 異界に手を入れるのはかなり神経を使う。 今日は長丁場だったので、彼女が思った以上に体力を消耗していたようだ。 「いや、これぐらい別にいいけど。 それよりも、少し休んでいったら? もう遅い時間だし、君さえよければ食事ぐらい用意させるよ?」 「いえ、お構いなく。 それに、今日は早く帰りたいから……」 「そう? そんなに急いでるなら、いっそ僕が送ろうか?」 人の良さそうな笑顔を浮かべて、七郎が手を差し伸べる。 その手をじっと見つめて時音は逡巡した。 下手に関わらない方がいいに決まっている。 けれど、約束の時間はとっくに過ぎていた。 こんなに遅くなってしまって、きっと良守は心配しているだろう。 一刻も早く帰りたいという思いが彼女の心を迷わせた。 「時音っ!」 耳に馴染んだ声が、彼女の名を呼んだ。 まさかと思いながら声がした方へ視線を向ける。 七郎のお付きである紫島に連れられた良守が、猛ダッシュで時音へと駆け寄った。 「良守? なんで……?」 「だってお前、全然帰ってこないし。 しかも、連絡だって取れないし。 「仕事は終わったんだろ? 時音は連れて帰るからな」 「こら、良守っ! あんた、なんでそんな言い方するの!? ごめんね、七郎君。 今日はあたしが未熟なせいで迷惑を掛けちゃって」 良守の不躾な態度を諌めつつ、まるで保護者のように時音が謝罪すると、七郎は面白そうに笑った。 「迷惑なんてとんでもない。 それに、雪村さんは優秀な術者だよ。 本気でウチに引き抜きたいぐらいだ」 その言葉に驚いて時音は目を丸くさせた。 しれっと爆弾発言をする七郎に良守が噛みつく。 「んなっ!? てめぇ、ふざけんな!! 時音はやらねーからなっ!!!」 「いや、君には聞いてないし。 彼女が結界師として有能なのは本当のことだろう? 空間支配系能力者の中でも君達の能力は稀なんだ。 是非とも扇家の専属になってもらいたい」 彼特有の軽い口調だが、彼女へと向けられた瞳は真剣だ。 七郎の本気が窺えて、緊迫した空気が流れる。 その眼差しを真摯に受け止めて、時音は静かに話し始めた。 勿論、それを決断し実行したのは彼自身だ。 それでも、背負うべき罪はこちらにある。 どんな理由があれど、土地神殺しは大罪だ。 例えそれが、公にされず罪に問われなかったとしても。 決して赦されることではない。 「……あたしへの高い評価も、過分だとは思うけど、素直に嬉しいです。 出来ることなら、あなたの力になりたいと思っています。 でも、」 「でも?」 「そのお話はお断りさせて頂きます。 隣に並ぶ良守が心配そうに様子を窺う。 そんな彼に向かって、彼女は安心させるように鮮やかな笑顔を見せた。 長年同じ土地を守ってきた墨村と雪村の結界師。 その正統継承者である二人の間には、やはり特別な絆があるようだ。 七郎は諦めに似たため息をついた。 「……紫島。 二人を送ってあげて」 自分の従者に指示を出すと、彼は風を纏って一気に舞い上がった。 上空から地上を眺めると、良守と時音は寄り添うようにこちらを見上げている。 (なるほど。 だから、まほら様は彼のことが気に入らないんだな) 土地神の機嫌の悪さを察して、七郎は苦笑した。 「お二人とも、私が責任を持ってお送りしますので、どうぞこちらへ……」 そう言って、主人の命を忠実に守る紫島が残された良守と時音を促す。 七郎もどこかへ行ってしまったし、ここで彼を待ち続ける理由もないので、二人は大人しく紫島の案内に従った。 「……ねぇ、良守。 結局どんなケーキ作ったの?」 ふと、思い出したように時音が訊ねると、良守はニヤリと得意そうな笑みを浮かべた。 「内緒。 それは見てのお楽しみ」 「ふーん? ま、いいわ。 あんたの作るケーキ、美味しいから楽しみ。 ね、早く帰ろう?」 連れ立って歩きながら時音が楽しそうに笑う。 その姿に、良守も嬉しそうに目を細めた。 去年までの、半ば強制的に烏森で過ごした夜とは全然違う。 今年は望んで一緒にいる。

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結界師

結界師 土地神

14歳。 時音を守るために強くなろうと決意)、雪村時音(良守の隣家に住む結界師一族の娘。 16歳。 しかし本当は、厳格な祖父に言われいやいや修行と家業を行っているだけで、毎日ふて腐れ気味。 幼なじみで同業の時音にも「いやなら辞めれば良いのに」と言われる始末。 そんなある日、妖の退治中に良守のミスから時音が大ケガを負ってしまった!! かつての城跡に建つ私立・烏森学園を舞台に、400年後の現在も跋扈[ばっこ]し続ける妖怪に立ち向かう墨村家と雪村家の若き後継者、良守と時音の活躍を描く妖バトルストーリーの第1集。 約500歳。 その嗅覚で妖の位置を探る)、墨村繁守(良守の祖父で、墨村家21代目当主の結界師。 68歳)、白尾(開祖以来の雪村家付きの妖犬。 約400歳。 斑尾と仲が悪く、良守をバカにしている)、雪村時子(時音の祖母で、雪村家21代目当主の結界師。 14歳。 時音を守るために強くなろうと決意)、雪村時音(良守の隣家に住む結界師一族の娘。 16歳。 しかし本当は、厳格な祖父に言われいやいや修行と家業を行っているだけで、毎日ふて腐れ気味。 幼なじみで同業の時音にも「いやなら辞めれば良いのに」と言われる始末。 そんなある日、妖の退治中に良守のミスから時音が大ケガを負ってしまった!! かつての城跡に建つ私立・烏森学園を舞台に、400年後の現在も跋扈[ばっこ]し続ける妖怪に立ち向かう墨村家と雪村家の若き後継者、良守と時音の活躍を描く妖バトルストーリーの第1集。 約500歳。 その嗅覚で妖の位置を探る)、墨村繁守(良守の祖父で、墨村家21代目当主の結界師。 68歳)、白尾(開祖以来の雪村家付きの妖犬。 約400歳。 斑尾と仲が悪く、良守をバカにしている)、雪村時子(時音の祖母で、雪村家21代目当主の結界師。 70歳)• 14歳。 時音を守るために強くなろうと決意)、雪村時音(良守の隣家に住む結界師一族の娘。 16歳。 烏森の地の実地調査に来たという彼女は、時音が幼い頃に亡くなった父・時雄の世話になったことがあるらしく、初対面の時音にも気さくに話しかけてくる。 だが時音はその話を聞くうち、父が妖に殺されたときの無惨な光景が脳裏に浮かんできて…(第8話)。 後半では、烏森学園の校内に咲く狂い咲きの桜にまつわるエピソードで、良守はクラスメートの女の子に結界師の力がバレてしまう!? 巻末にはおまけ漫画「まだまだやるぜ制作秘話」を収録。 約500歳。 その嗅覚で妖の位置を探る)、墨村繁守(良守の祖父で、墨村家21代目当主の結界師。 68歳)、白尾(開祖以来の雪村家付きの妖犬。 約400歳。 斑尾と仲が悪く、良守をバカにしている)、雪村時子(時音の祖母で、雪村家21代目当主の結界師。 70歳)、雪村時雄(時音の父。 時音が幼い頃、結界師の仕事で受けた傷により亡くなる)、春日夜未(鬼使いの娘)、ヨキ(夜未が契約をかわした鬼)• 14歳。 時音を守るために強くなろうと決意)、雪村時音(良守の隣家に住む結界師一族の娘。 16歳。 そんなある日、無数の氷の破片を飛ばす妖・氷渡(ひわたり)が現れた! 修行の成果を試すチャンスと意気込む良守だが、氷渡の放った特大の一発は、良守の結界を貫通するほどの威力だった…!! 約500歳。 その嗅覚で妖の位置を探る)、墨村繁守(良守の祖父で、墨村家21代目当主の結界師。 68歳)、白尾(開祖以来の雪村家付きの妖犬。 約400歳。 斑尾と仲が悪く、良守をバカにしている)、雪村時子(時音の祖母で、雪村家21代目当主の結界師。 70歳)、鋼夜(約500歳の化け犬。 かつては斑尾と同じ山に育った山犬だった)• 14歳。 時音を守るために強くなろうと決意)、雪村時音(良守の隣家に住む結界師一族の娘。 16歳。 犯人の妖を見かけた時音は追跡を始め、その途中で良守の同級生・ユリと出会う。 さっきまで妖がいたという場所にユリが案内すると、その地点だけもっさりと苔が生えていた。 そのころ良守は昼寝のため屋上に登っていたが、そこで「ウロ様」と呼ばれるその妖とばったり遭遇してしまう(第37話)。 無色沼の底にある自分の寝床を直してくれる結界師を捜していた彼らに、良守は一人で引き受けることを決意。 長時間、人間がとどまることを許されない"神の領域"で、良守は無事役目を果たすことが出来るのか…!? 約500歳。 その嗅覚で妖の位置を探る)、墨村繁守(良守の祖父で、墨村家21代目当主の結界師。 68歳)、白尾(開祖以来の雪村家付きの妖犬。 約400歳。 斑尾と仲が悪く、良守をバカにしている)、雪村時子(時音の祖母で、雪村家21代目当主の結界師。 70歳)、神田百合奈(通称ユリ。 良守の同級生で霊感が強い。 良守が結界師であることを知っている)、ウロ様(食いしん坊で憎めない、自然物を司る土地神様)、マメ蔵(ウロ様の側近)、白羽児(一月・二月・三月の三人で一心同体。 体を小さな羽に分化し、操ることができる)• 14歳。 時音を守るために強くなろうと決意)、雪村時音(良守の隣家に住む結界師一族の娘。 16歳。 しかし、この戦闘を密かに観察する男がいた。 時音の放った式神に不意をつかれた男は、思わず邪気を漏らしてしまい、それを感じ取った良守の追跡を受けることに。 異様に長く伸びる手で遠くをつかんで逃げる男を、良守は巨大な結界で捕らえることに成功するが…(第46話)。 正守を尊敬する一方、良守とは衝突ばかり。 そこへ、体を高速で回転させる大首車がやってきて…!? 約500歳。 その嗅覚で妖の位置を探る)、墨村繁守(良守の祖父で、墨村家21代目当主の結界師。 68歳)、白尾(開祖以来の雪村家付きの妖犬。 約400歳。 斑尾と仲が悪く、良守をバカにしている)、雪村時子(時音の祖母で、雪村家21代目当主の結界師。 70歳)、志々尾限(ししおげん。 裏会・実行部隊"夜行"所属構成員。 正守を慕う)、墨村正守(良守の兄。 史上最年少の裏会総本部の幹部として内定している)• 14歳。 時音を守るために強くなろうと決意)、雪村時音(良守の隣家に住む結界師一族の娘。 16歳。 なんとか成仏させようと考えた良守が原因を調べたところ、以前校庭によく来ていた黒猫を先生が「ノワール」と名付けて可愛がっていたことが判明する。 この時まで黒猫が死んだことを知らなかった先生だが、実は交通事故死していたことが分かり…(第56話)。 約500歳。 その嗅覚で妖の位置を探る)、墨村繁守(良守の祖父で、墨村家21代目当主の結界師。 68歳)、白尾(開祖以来の雪村家付きの妖犬。 約400歳。 斑尾と仲が悪く、良守をバカにしている)、雪村時子(時音の祖母で、雪村家21代目当主の結界師。 70歳)、志々尾限(ししおげん。 正守を慕う)、神田百合奈(通称ユリ。 良守の同級生で霊感が強い。 良守が結界師であることを知っている)、墨村正守(良守の兄。 裏会総本部の最年少幹部)、火黒(黒芒楼からの刺客五人のうちで最強。 戦闘時の動きが早い)• 14歳。 時音を守るために強くなろうと決意)、雪村時音(良守の隣家に住む結界師一族の娘。 16歳。 結界が使えず、手も足も出ない二人だったが、良守の提案で方陣からの脱出に成功!! すると、それまで人間の姿をしていた五人の刺客たちが、ついにその正体を露わにして…(第66話)。 約500歳。 その嗅覚で妖の位置を探る)、白尾(開祖以来の雪村家付きの妖犬。 約400歳。 斑尾と仲が悪く、良守をバカにしている)、志々尾限(ししおげん。 正守を慕う)、墨村正守(良守の兄。 裏会総本部の最年少幹部)、火黒(黒芒楼からの刺客五人のうちで最強。 戦闘時の動きが早い)、翡葉京一(裏会から烏森の警護役に派遣されており、主に志々尾の見張りをしている)• 14歳。 時音を守るために強くなろうと決意)、雪村時音(良守の隣家に住む結界師一族の娘。 16歳。 一方その頃、良守は学校を休んだ志々尾のために、2人分の弁当と自作のチョコレートケーキを持って、彼の家を訪ねることに。 和気あいあい(?)と食事する2人だったが、そこに突然謎の女性がドアを壊して入ってきて…(第76話)。 約500歳)、白尾(開祖以来の雪村家付きの妖犬。 約400歳)、志々尾限(ししおげん。 裏会・実行部隊「夜行」所属構成員。 正守を慕う)、墨村正守(良守の兄。 裏会総本部の最年少幹部)、翡葉京一(裏会から烏森の警護役に派遣されており、主に志々尾の見張りをしている) 、白(烏森を狙う妖たちの組織「黒芒楼」の統括。 左眼に蟲を飼う)、牙銀(「黒芒楼」実行一部。 沼の水を飲み干すことができる)、碧闇(「黒芒楼」情報部。 手に千珠眼を持つ)、藍緋(「黒芒楼」研究部。 白の命令で黒芒楼の城から出られない。 人間に飼われていた過去が原因で、いつも人間の姿をしている)、花島亜十羅(「夜行」所属の妖獣使い。 志々尾の指導を担当している)• 14歳。 時音を守るために強くなろうと決意)、雪村時音(良守の隣家に住む結界師一族の娘。 16歳。 火黒から渡された、持ち主の姿を真似る使い魔が育つという卵を眺めながら、妖混じりの自身が人間側なのか、それとも妖側なのか迷いを感じていた。 そこに現れた良守から、唐突に「好きな子いないの?」と聞かれても、浮かない顔で「俺を好きになる奴なんかいねーよ」と答えるだけで…(第86話)。 しかし時子不在のうえに、正守には別の重要任務が入ってしまい、烏森の護衛が手薄に。 良守達は烏森を救えるのか…!? 約500歳)、白尾(開祖以来の雪村家付きの妖犬。 約400歳)、志々尾限(ししおげん。 裏会・実行部隊「夜行」所属構成員。 正守を慕う)、墨村正守(良守の兄。 裏会総本部の最年少幹部)、翡葉京一(裏会から烏森の警護役に派遣されており、主に志々尾の見張りをしている) 、白(烏森を狙う妖たちの組織「黒芒楼」の統括。 左眼に蟲を飼う)、牙銀(「黒芒楼」実行一部。 沼の水を飲み干すことができる)、碧闇(「黒芒楼」情報部。 手に千珠眼を持つ)、藍緋(「黒芒楼」研究部。 白の命令で黒芒楼の城から出られない。 人間に飼われていた過去が原因で、いつも人間の姿をしている)、雪村時子(時音の祖母で、雪村家21代目当主の結界師。 70歳) 、火黒(「黒芒楼」の一匹狼。 戦闘時の動きが早い)•

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