あんた ほど の 実力 者 が そういう の なら。 漫画雑誌の編集者の仕事って・・・ズルイ?

あんたほどの実力者が

あんた ほど の 実力 者 が そういう の なら

突如、現れたマチは不機嫌そうにラミナの首を絞めている念糸を更に引く。 「ぐぅえ!? ちょ、ちょいタンマ……!」 「だったら、とっとと白状しな。 ハンター試験終わっても何にも連絡寄こさないで、こんなところで油を売ってるんだ。 よっぽどのワケなんだろうね?」 「…………多分? ごぉ!? 言う言う言う言う!! ちゃんと全部話すから!」 「ふん」 マチは不機嫌な顔のまま念糸を外す。 荒くなった息を整えたラミナは、汗を拭って疲れた顔でマチに向く。 「うちの部屋行こか……。 それとも、そっちの部屋でええか?」 「あんたの部屋でいいよ。 さっさと案内しな」 「へいへい……」 さっさと天空闘技場の部屋に移動することにしたラミナ。 特にキルアとゴンに会わせないようにしなければならず、必死に気配を探って近くにいないことを確かめる。 マチ相手に隙を見てメールを送るなど出来ないので、本気で会わないことを祈っていた。 なんとか誰にも会わず、部屋へと戻ることが出来たラミナ。 ソファを勧めて、部屋に備え付けられた酒を何本か出して、ツマミと共にマチの前に並べる。 そしてマチの向かいに椅子を動かして座る。 「へぇ~。 たかが闘技場なのにいい部屋だね。 タダなんだろ?」 「勝ち残っとる間はな」 「あんたがそう簡単に負けるわけないでしょ。 ヒソカと戦うなら、話は別だけど」 マチは念糸で酒瓶の口を切り落として、直接傾ける。 ラミナもワインを開けながら、首を傾ける。 「ヒソカがおるんは知っとるんか?」 「あいつに用があって来たからね。 まぁ、なんか明日試合あるらしいから、念糸縫合も依頼されてるけど」 「ふ~ん……」 「で? いい加減あんたの言い訳を聞かせて欲しいんだけど」 「……」 マチはソファに足を投げ出し、横目でラミナを睨みつけながら問いかける。 ラミナはボトルに口を付けようとして固まる。 ちなみにラミナは一切を隠す気はない。 問題はキルアにマチの手が伸びないようにする言い方である。 このまま話すと、マチはキルアを探し出して殺しかねない。 そうなれば、ゾルディック家が総出で動く。 それは面倒事でしかないので全力で阻止したい。 下手な庇い方をすれば、マチが怖い。 すでに怖いが、マチが怖い。 ラミナは一口ワインを飲んで、覚悟を決めて話し出す。 「ハンター試験受ける前にゾルディック家に襲われたやん? マチ姉が助けてくれた奴」 「ああ、あれね。 その時にハンター試験受けるように伝えたんだっけ?」 「そうそう。 それで、まぁ真面目にハンター試験を受けに行ったんやけどな。 そこにゾルディック家の長男と三男も受けに来とってん」 「へぇ……暗殺一家がねぇ……。 まぁ、団長やシャルも持ってるから不思議でもないか」 マチはツマミを口に放り投げながら話を聞く。 「それで?」 「長男は変装して偽名を名乗って受けとったから、その時は知らんかったんやけどな。 三男の方は顔も名前も変えずに受けとって、色々と縁もあって仲良ぅなったんよ」 「ふぅ~ん……」 少し不機嫌な声に変わったマチに、ラミナは一瞬頬が引きつる。 誤魔化すようにツマミを放り込んで、ワインを飲む。 「ふぅ……。 んで、まぁ……ちょっとした時にな、その三男の頭ん中に針が刺さっとることに気づいてしもてな」 「……針?」 「そうそう。 額のちょい上あたりにな。 本人は気づいてる様子もなかったし、場所が場所で気になってしもたから、パッと引っこ抜いたんやんよ。 それが実は長男が三男を守るために埋め込んどった奴だったらしくてなぁ……」 「……なんで守るために頭に針を埋め込むのか意味が分かんないけど……。 あんたはどうやってそれに気づいたんだい?」 「ゾルディックの長男とヒソカが知り合いやってん。 それでその少し前にヒソカの仲介で引き合わされてなぁ……」 「ヒソカ? あいつもハンター試験受けてたの?」 「そやな。 あいつも受かっとるで」 「……ホント、何がしたいんだか……」 マチは呆れながら、変人奇術師を思い浮かべる。 ラミナも大いに頷きながら、説明を続ける。 「でな。 針を抜いたことが試験中にバレてしもてなぁ。 長男と殺し合いになってん」 「ゾルディックによく狙われるわね、あんた」 「全く嬉しないわ。 それでまぁ……その三男が後継者候補筆頭っちゅうことらしくてな。 三男はまだ念を知らんかってん。 その針が三男を敵意のある念から守るためやっちゅうことを聞かされてなぁ。 流石に試験どころやなくなりそうやったし、ゾルディック家当主に取引を持ち掛けたんや」 「取引……?」 「そや。 まぁ、余計な手出しをしたんは事実やしな。 またあの当主2人が出て来て、狙われるんも面倒やったし」 「あんたって、時々変なところで甘いよね」 「……ふん」 呆れながら言うマチに、ラミナは顔を逸らして不貞腐れるしか出来なかった。 今回の騒動は事実ラミナの甘さが招いたことだった。 「それで?」 「……まぁ、その後も色々あったけどハンター試験に無事に合格して、クロロの仕事を始めようと思たんやけどな。 ゾルディック当主から連絡が来て、ゾルディック家に行くことになったんや。 取引した以上逃げるわけにもいかんから、そのままゾルディック家に向かったんや」 ラミナは緊張を誤魔化すようにワインボトルを傾けて、ツマミを口に放り込む。 マチは新しい瓶に手を伸ばし、瓶の口を切り落として傾ける。 ラミナはいよいよ婚約させられたことを話さねばならない。 ここが正念場なので、嫌でも緊張する。 「で……まぁ、何だかんだでゾルディック家の連中とは仲良くなったんやけどな……」 「だけど?」 「その~……ん~……気に入られ過ぎたみたいでなぁ」 「は?」 「…………取引の条件を……お、御曹司と……こ、婚約するっちゅうことにされてしもでごぇ!?」 最後は顔を背けながら告げると、突如体を縛りつけられる。 そのまま椅子を倒しながら後ろに引っ張られて、床に仰向けに倒される。 さらに両脚も縛られて、マチがラミナの腹の上に乗り、両脚でラミナの体を締め付ける。 「ぐえっ……!」 「誰と……なんだって?」 「ぢょっ……ぢょど待でぇ……! ギヅイ゛……じめ゛ずぎぃ……!?」 見た目と違ってマチの力はかなり強く、旅団女性メンバーの中では1番強い。 ちなみにラミナの力も強い方ではあるが、マチほどではなくクロロより少し弱いくらいだ。 なので、こうなるとラミナがマチから逃れる術はない。 殺すつもりで本気になれば話は別だが。 両親よりも長い時間共にいたマチは、ラミナにとっては特別な存在なので殺す気になることはないが。 「誰と……なにをしたって?」 「い、言うとくけど! 向こうが勝手に言っとるだけやで!? うちとそいつは認めとらんから! ゾルディック当主陣が勝手に決めて、そう思っとるだけやから! ゾルディック家にホンマに嫁入りなんざせんから!!」 「……そのクソ野郎はどこにいるの?」 「ここにおるけど、言うたとおりそいつもうちと婚約なんかする気ないねんて。 しかも12歳のガキやで? うちかてガキに興味ないわ」 「じゃあ、なんで一緒にいるんだい?」 「もう1つ、ゾルディック家から頼まれたんや。 念を教えてやってくれってな。 それでここに来たんや。 念を教え終えたら、クロロの仕事に戻るつもりやったし、そいつともおさらばする気や。 それはそいつも了承しとる」 「……」 「そ、それとな! ゾルディック当主からもうちが旅団に入ることは認められとるから! や、やから欠員出たら、今度は仕事中でもちゃんとそっちに合流するから!」 「まさか、ゾルディックのガキも入れろなんて言わないだろうね?」 「言わん言わん。 そいつは殺しに嫌気さしとるから旅団には向かん。 基本的にそいつを旅団に関わらせる気はないとも当主に言うとる。 やから旅団に入ったら、そのままずっとおさらばになるはずや」 「……」 マチは鼻と鼻がくっつきそうなほど顔を近づけて、ラミナの目を見つめる。 嘘はついていないのでラミナも目を逸らさない。 「そ、そろそろ脚か念糸か緩めてくれへん?」 「……」 「……」 先ほどより圧迫感は弱まったが、マチは明らかに不機嫌なままだった。 困ったことにこうなったマチを宥めるには、大人しく言うことを聞くしかない。 マチはクロロの言葉でもラミナに関することになると中々譲らないので、旅団メンバーはマチの前ではラミナが関わることにあまり口出ししないのが暗黙の了解になっていたりする。 10分ほど見つめ合っていた2人。 マチは眉間に皺を寄せたままラミナの上から退き、ソファに戻ってラミナの念糸を解く。 ラミナは大きく息を吐いて起き上がる。 「団長は婚約の事知ってんの?」 「まだ言うてへん。 マチ姉が初めてや」 「……そ」 マチは酒瓶を傾けて呟く。 ラミナが椅子を戻して座り直すと、マチがラミナに目を向ける。 「ヨークシン」 「ん?」 「ヨークシンでの仕事の間、アタシの言うこと1つ聞いてもらうよ。 どんな状況で、どんな仕事であってもね」 「……まぁ、クロロの邪魔になる……ことなんぞ言わんか。 了解や。 姉様のご命令には逆らわへん」 「なら、 今 ・ は ・ クソ野郎は見逃す。 けど……向こうからアタシの前に現れたら知らないよ」 「そうならんように祈っとくわ。 流石にあいつから近づいたんやったら、死んでもそれはあいつのミスや。 別に文句は言わん。 まぁ、ゾルディックと戦争にはなりそうやけどな」 「その時は潰せばいいさ。 ウボォーとかフェイなら喜んで参加するよ」 「やから面倒やねん」 確実に都市1つ吹き飛ばす戦いになる。 派手になるとプロハンターも出張ってくる可能性があるので、それもまた厄介だ。 そんな戦いのきっかけに自分が関わるなど冗談ではないラミナだった。 「ところでヨークシンで何するんか知っとるか?」 「知らないね。 ただ……」 「ただ?」 「旅団全員集めるように言われたから、デカい仕事みたいだよ」 「……なるほど。 ……うちが外に出てから全員集合って初めてちゃうか?」 「そうだったかね」 ラミナが本格的に流星街の外に出て活動を始めたのは約2年前。 そうなってからは全員揃ったという話は聞いたことはない。 「まぁ、ヒソカはよくすっぽかしてたしね」 「よう許したな……」 「団長が許してるからね」 「ふぅ~ん……」 (やっぱクロロの奴、ヒソカのこと警戒しとるんか?) 幻影旅団 クモ にとって 団長 頭 の命令は基本絶対。 それを無視するのは掟違反。 しかし、クロロはヒソカを罰しない。 ヒソカの実力をそれだけ認めていても、少し違和感がある。 「ヒソカって戦い好きやのに、そんなにすっぽかすんか?」 「あいつは戦い好きって言っても、タイマンに拘るタイプみたいだからね」 「ふぅ~ん……」 (つまり旅団全員と同時に戦うような奴やない。 さらに言えば、徒党を組むタイプでもない。 なら考えられるんは……クロロとの1対1での殺し合い) ならば、ヒソカがクラピカに話したのは『クロロと1対1で戦う機会を作るため』。 そう確信したラミナは、心が冷えていくのを感じた。 恐らくクロロは、何となくではあるのだろうがヒソカの目論見に気づいている。 自分に気づけたことがクロロが気づけないわけがないと、ラミナは考える。 「うちがクロロから依頼されとるんは皆知っとるんか?」 「知ってるのは依頼した団長を除けば、アタシだけだよ。 依頼内容までは知らないけどね」 「……そうか」 「なに頼まれたの?」 「ん? 十老頭に近いマフィアに潜り込めっちゅうだけしか聞いてへん。 詳しくはうちも知らん」 「そ。 ツマミ、なくなった」 「へいへい……」 呆れながら、新しいツマミを用意するために立ち上がるラミナ。 新しいツマミを出しながら、ラミナは一度クロロに連絡を取ることを決めたのだった。 その後は比較的和やかに酒を飲むマチとラミナ。 「今日、どこ泊まるんや?」 「ここ」 「……まぁ、ええけど。 ほな、飯どうする?」 「ここってキッチンとかないの? それか美味しい店とか」 「メニューは?」 「肉」 「ほんならステーキでも行こか」 「その前にシャワー浴びるわ。 借りるよ」 「お好きにどうぞ」 マチは浴室に向かう。 ラミナはその隙にキルアとクロロに素早くメールを打つ。 キルアには『明日の観戦、特訓は各自で。 成果の確認と試合の考察は来週に』。 クロロには『マチ姉に会った。 仕事の件で話がある』と送る。 すると、クロロからすぐに着信が来た。 「もしもし?」 『マチに会ったのか。 今どこにいるんだ?』 「天空闘技場。 ちょいと色々あってな」 『ふむ。 お前がそんなところに興味があったとはな』 「やから、色々あってん。 まぁ、それは近いうちに話すわ」 『マチは何してるんだ?』 「今は風呂や」 『ふっ。 怖い姉の隙を突いたわけか』 「うっさいわ。 それで、ヨークシンでの仕事の件やけど」 『どうした?』 「ヒソカが不穏な動きを見せとる。 狙いはクロロやろな」 『……そうか……。 どんな動きを見せている?』 「今回のハンター試験の合格者の中に、旅団に強い恨みを持つ人間がおる。 そいつにヨークシンに旅団が集まることを話した」 『……ふむ』 「ただ、そいつはまだ念を覚えてへん。 やから現状では脅威度は未知数や。 ヨークシンに来たとしても、ヒソカの協力者となりえるかも分からん」 『そうか……。 それはそれで面倒だな』 「でや、お前がうちに依頼したいんは十老頭の暗殺だけちゃうな? 他にもなんかあるやろ?」 『……ふっ、流石だな。 いや、予定変更だ。 十老頭の暗殺に関しては、他の奴に依頼する』 「ほな、うちは?」 『お前には旅団のサポートをしてもらいたい。 基本やることは俺かマチ、シャルナークの3人から伝える。 一番やってもらいたいのはヒソカの監視。 もし、奴が動く気を見せて隙があれば……殺せ』 「……報酬は?」 『仕事が終わったときに言い値で払おう。 それと……『4』の数字だ』 「……ええやろ」 『よし。 俺も含めて団員達は、ヒソカが明確に裏切り者と分からない限り動かない。 この話も俺とお前だけで留める。 マチにも言うな。 感づかれないように注意しろ』 「……まぁ、頑張るわ」 マチの直感は恐ろしい嗅覚と正確さを誇る。 それを掻い潜るのは簡単ではないことは、ラミナが一番知っている。 電話を切ったラミナは息を吐いて、素早く通話記録を消す。 「明日の試合でどこまで実力が見れるかやな。 まぁ、マフィアを探して近づかんでよくなったんは助かるわ」 おかげで時間的な余裕も出来たので、その間に万全の体勢を整えることに決めたラミナだった。 マチとラミナはステーキ屋を訪れていた。 もちろんテーブルマナーなど知ったことではない2人は、高級ではあるが大衆的な雰囲気の店を選んだ。 「それでクソ野郎にいつまで念を教えるの?」 「今【発】の修行やらしとるから、後1か月もかからんと思うで」 「あんたが人に教えるなんてね」 「うっさいわ。 うちかて思っとらんかったわ」 2人の前には皿がそれぞれ10枚以上積まれている。 若い女2人の食べっぷりに周囲は唖然としており、それでもまだ淡々と食べている姿に慄く。 「そういえば、あんたは明日のヒソカの相手、知ってんの?」 「顔と名前はな。 なんやヒソカに因縁あるみたいで、そこそこ実力はありそうやったで? まぁ、ヒソカの方が上やと思うけど、うちもヒソカの能力知らんし」 「あいつの能力は中々に厄介だね。 まぁ、団長やあんたほどじゃないけど」 マチはステーキを口に食べながら、ヒソカの念能力について話す。 ヒソカは変化系の能力者で【 伸縮自在の愛 バンジーガム 】と【 薄っぺらな嘘 ドッキリテクスチャー 】の2つの能力を持っている。 【バンジーガム】はオーラをゴムとガム両方の性質をもつものに変える。 至る所に貼ることが出来、好きな時に剥がすことが出来る。 よく伸びて、素早く縮む能力。 【ドッキリテクスチャー】は紙のように薄っぺらいものにイメージを加え、オーラで見た目や質感を再現する能力。 「……弾力性と粘着性を持つオーラか。 厄介やなぁ」 「【隠】と合わせて使うし、殴られれば付けられるからね。 あんたはともかく、そこらへんの奴なら基本逃げようがない」 ラミナは【月の瞳】を発動すれば無効化は出来る。 しかし、それでもあくまでラミナ自身に影響がないだけで、他のものに使われると面倒ではある。 それに【月の瞳】を発動する以上、早期決着を狙わなければならない。 時間をかければかけるだけ、武器のストックが減るからだ。 しかも【凝】にも意識を削がなければならないので、ヒソカの身体能力を考えるとかなり手の内を晒さなければ厳しいだろう。 「特性も単純だからバレたところで大した問題にならないし、応用の幅も広い。 よくできてるよ」 「やなぁ」 ラミナも純粋にヒソカの能力を感心する。 攻撃・防御・回避・逃走・奇襲、全てに対応できる能力を持っている。 キルアに真似させたいくらいである。 食べ終えた2人は部屋へと向かっていた。 「50万ジェニーか」 「まぁ、あの味ならそんなもんじゃない?」 もちろん支払いはラミナである。 マチとの食事では、基本奢るのはラミナだ。 これに関してはもうラミナは諦めている。 「明日はどうするんや?」 「団長の伝言もあるから、ヒソカには会う。 終わったら次はフランクリンに会いに行く予定」 「フランクリンはどこにおるん?」 「知らない。 ホント、携帯くらい持ってほしいね」 「フランクリンが使える携帯なんざあるんか?」 「……ないかもね」 帰る途中、店で酒やらツマミを買い足す。 部屋に戻った2人はまた酒とツマミを広げて、さらに服を脱ぎ捨てて下着姿になり、髪を解いて下ろす。 女同士で、姉妹同然に育った仲なので、下着姿くらいでとやかく言うこともない。 というか、習慣が似ているのだ。 寝るとき下着姿なのは、2人にとっては昔からの事だった。 「ベッド使ってええで」 「一緒に寝ればいいでしょ? 昔はよく抱き着いてきたじゃない」 「10年以上前の話やろが。 それに今はうちの方が身長たかっ!?」 身長の話をした瞬間、マチのしなやかな脚が飛んできて、反射的に頭を反らしたラミナの鼻先を通り過ぎる。 「あぶなっ!」 「ふん!」 マチは不貞腐れたようにラミナを睨みつけながら、酒瓶を傾ける。 姉にとって、妹に身長で抜かれるのは地味に屈辱なのだ。 ラミナは呆れながらグラスに氷を入れてウイスキーを注ぐ。 「パク姉がおるんやから、今更気にすることないやろ」 「うっさいよ」 ギロリと睨みつけるマチ。 ラミナは苦笑して、ツマミを食べる。 「今、育ててるクソ野郎は強くなりそうなの?」 「ん~……どうやろなぁ……」 「…………やっぱ言わなくていい。 殺したくなりそうだし」 少し酒が回ったのか、マチは僅かに頬を赤くして顔を背ける。 ラミナは苦笑して、マチにハイボールを作ってグラスを渡す。 マチは不貞腐れたように僅かに顔を顰めながらも、グラスを受け取って傾ける。 「安心しぃ。 そっちがしとる慈善事業と似たようなもんや。 そいつらが強くなろうが弱くなろうが、そこまで面倒見る気はないでな」 「ふん。 どうだか……。 あんたは変なところで甘いし、無駄に義理堅いからね」 「そら、育ててくれた姉が似たようなところがあるでなぁ」 「あんたほどじゃないよ」 ツマミを口に放り投げながら呆れたように言うマチ。 その後も飲み続けて、日付が変わった頃に2人でベッドに横になる。 「……何年ぶりだっけ? こうやって寝るの」 「ん~……10年は経っとるやろ。 互いに念の修行始めたり、旅団を作ってからは特になぁ」 「……そうだね。 あの家、もうないんだっけ?」 「あるで。 ただ……他のガキ共にくれてやったけどな。 そいつらは流星街出る気ないみたいやったし、うちらが使い続けるよりはええやろと思てな」 「ふぅん」 「まぁ、外に拠点にしとる家があるけっどぉ!?」 脇腹に肘打ちを食らい、ベッドの下に突き落とされるラミナ。 マチは横向きになり、ベッドの下で呻いているラミナを見下ろす。 「ぐぅおおぉおぉ……!」 「それ知らないんだけど」 「う、嘘やん……。 クロロやフェイタン達、皆来たことあるで? 『マチ姉にも場所伝えとく』て言うてたで?」 「メールとか電話は?」 「フィンクスがマチ姉の携帯が壊れとるから連絡がつかんって。 事実、電話通じんかったし……」 「……あの時か」 マチは数年前に携帯が壊されたことがあり、「しばらくはパクやシズクといるからいらない」と言って、持たなかった期間があった。 どうやらその時にマチとラミナは他のメンバーから揶揄われていたらしい。 マチは怒りが込み上げて目を吊り上げる。 ラミナは脇腹を押さえながら、ベッドによじ登って仰向けになる。 「……あいつらの修行終わったら、一度帰る予定やから……。 その時に連絡するから来ればええ」 「場所は?」 「サヘルタ合衆国の【カゴッシシティ】や。 ヨークシンにも近いで」 「カゴッシね。 メールでも送っといて」 「へいへい……」 ラミナはグデッとして頷き、再びマチの御機嫌取りをするのだった。 その後は穏やかに時間を過ごし、ラミナは眠りにつく。 マチは隣で静かに眠るラミナを見つめ、 「ふ……」 ラミナの頭を優しく撫でながら柔らかい微笑みを浮かべ、マチも目を瞑って眠りにつく。 久しぶりの姉妹だけの時間は、何だかんだで和やかに過ぎていった。

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あんた ほど の 実力 者 が そういう の なら

あの初依頼から約二年の年月が流れた。 俺はギルドの仲間達、時には単独で依頼をこなしていった。 おかげでDBの扱いもお手の物だ。 もちろんデカログスの扱いも身体的に成長したこともあってか十二分に使いこなせるようになった、と言っても完璧とは言いがたいが。 そんな俺のことよりもこの二年で新たに仲間になったメンバーがいる。 まず一人目はあの依頼から一年後、ナツ・ドラグニルがギルドにやって来た。 見た感じグレイほどの年齢で桜色の髪とマフラーが特徴的だ。 聞いた話ではドラゴンに育てられたとか……この世界はドラゴンまでいるのかと少し気持ちが浮かれたな。 いずれ、戦ってみたい。 そして火の滅竜魔法を操る 滅竜魔導士 ドラゴンスレイヤー でもあるらしい。 ドラゴンから教えられた魔法らしいが何故竜を滅する魔法をドラゴンから教えてもらったのかが疑問だ。 何より面白いのが、ナツは炎を食べることが出来るということ。 そしてどこか前作RAVEの主人公ハルを思わせるような容姿とナツという名前からもしかしたらとは思っている。 春 ハル から 夏 ナツ だからな。 グレイとは仲がいいのか悪いのか、いつも喧嘩している。 というより、じゃれあっていると言った方がいいか。 その後、エルザが二人を宥めて武力行使で黙らせるのがお約束になっている。 そのエルザとよく喧嘩を勃発させているミラジェーン・ストラウス。 ナツがこのギルドに加入して一年後にやってきたばかりの新人くんの内の一人だ。 ミラジェーン、エルフマン、リサーナは三人姉妹いや兄弟か? エルフマン以外は女の子だ。 エルフマンは気弱で心優しい少年。 リサーナはナツと仲が良く、一緒にいる場面をよく見かける。 ちょっとませた女の子だが背伸びをしたい年頃なのだろう。 そして問題は長女のミラジェーンだ。 同じ十三歳の女の子だからだろうか、エルザといつも張り合っており実力もエルザと拮抗している。 変身魔法のテイクオーバーという種類の中でもサタンソウルと呼ばれる悪魔のような姿に変身した時はあのエルザと互角にまで持ち込むほどの戦闘力を発揮する。 その姿から【魔人】なんて呼ばれ始めてる程だ。 正直十三歳だったときの俺なら苦戦しただろう。 そんな彼女が俺に興味を持ち出したのはギルドに入りエルザとよく喧嘩し始めた頃だった。 何か用か?」 その少女は髪の色とは正反対の黒を基調とした服装をしており、どことなく俺の服装とテイストが似通っているような気がした。 女の子が使う言葉にしては乱暴なほうだろうが俺はあまり気にしないタイプなのでスルーした。 「エルザとあんたが一緒にいる所をよく見かけるからね、話掛けてみたんだ。 しかもあのエルザが強いって言うんだから私の興味を引かないわけないだろ?」 ふぅん、と話半分で聞き流し最近やっと合法で飲めるようになったワインを口に含め喉へと流し込む。 この国では十五歳からの飲酒を認めている。 つまり十五歳の俺は飲酒しても何ら問題はないということだ。 カナは何故か飲んでいるが原因は俺だろう。 初依頼のとき俺が美味しそうに飲むお酒を見て十三歳になったら酒を飲むと決めていたらしい。 もっと悪びれてひっそりと飲むべきだった。 悪影響を与えてしまったと反省している。 今飲んでいる酒は定期的にブランクの所から送ってもらっているワインだ。 そんな現実逃避したどうでもいい思考を渦巻かせているとミラジェーンの声により現実に意識が戻る。 聞いてんのかっ!と声をあげているミラジェーン、面倒なのでミラと呼ぶことにしよう。 そのミラが不満げに俺のワインを盗り顔を覗き込む。 「あぁ、聞いてる。 だからワインを返せ。 今丁度ほろ酔いで気分が良くなってきたんだ」 「ったく、んでルシアが強いっていうからよ。 試してみたくてな。 それに金髪の悪魔って呼ばれてたこともあるんだろ?エルザが言ってたぜ。 そんぐらい強いってな」 ニヤリと笑うミラは今から戦おうぜとばかりに戦闘のオーラを出している。 がしかし、いくら戦うことが好きな俺でも年中無休戦いたいわけじゃない、時と場合による。 気分良く一人で飲んで長旅だった依頼の疲れを取っているところだ。 残念ながらやる気があまりない。 それに…… 「止めとけ。 強いと言ってもまだエルザクラスだろ? 相手にならねぇよ」 「あ゛ぁ!? 」 しまった。 馬鹿か俺は。 逆にガソリンを注いでどうする。 どうにも相手を宥めることが苦手だ。 元々好戦的な俺が苦手なのも自身でも納得のいく話だが、いつかは出来るようになる日を祈る。 別にそのために努力する気にはなれないが。 俺はこの場で臨戦態勢をとろうとしたミラを磁力のDB【コンパスコード】で動きを止めた。 「なっ! なんだ、身体が動かない!」 「この場で暴れようとしたからだ。 ほら、外いくぞ。 そこならギルドが壊れずに済む」 俺はコンパスコードを解きミラを自由にする。 まぁこのDB自体雑魚ならまだしもミラのほど実力者なら力技で何とかできただろう。 すぐに俺から距離をとったミラは警戒の色を隠さず注意深く今の出来事を思案しているのだろう。 良いことだ。 俺はそのままギルドを出て歩きだす。 その後をミラがハッとしたように追いかけてくる。 場所はマグノリアから少し離れた場所だ。 所々木々が生えているが、俺が立ち止まった場所は雑草が生えているだけだ。 ここだけ木々が無いのは、俺がよくデカログスで修行しているからという理由もある。 とりあえず、今回はデカログスは使わないでおこう。 前にエルザとミラが戦闘していた時は素手で戦っていたからな。 最近殴りあいをしてなかったので拳で語らうとしよう。 もしものときは最近少しだけ使えるようになった特殊DBの五六式DBを使えばいいか。 けどあれは使った後身体中が痛くなるから嫌なんだけどな。 ミラの様子を見るとありありと警戒していることが見て取れる。 恐らく先ほどのDBせいだろう。 魔力を使わず不可思議現象を起こしたんだからな。 そりゃあ警戒の一つもするか。 「さて、ここなら少し暴れても問題ないだろ」 「……最初から全力で行くよ! 私は強くなくちゃいけないからねっ!」 一瞬にしてミラはサタンソウルにより姿を変え、溢れる闘志を放っている。 凄いなこれは。 向かい合って初めてその強さを正確に感じ取れた。 なるほど、エルザと拮抗するわけだ……少しだけやる気が出た、かな。 ポケットに手を入れたままだが。 地面が割れる音が聞えた瞬間、ミラは俺へと突撃してきた。 その歳にしては有り得ない程の身体能力で迫り俺の腹部へ右ストレートが突き刺さった。 咄嗟に腹部を鋼鉄に変え衝撃の瞬間後方に跳び威力を軽減した。 「さすがエルザが目標にする男なだけあるね。 今の一瞬で後ろに飛んで威力を軽減するとは。 それに異常に硬かった腹部にも何かしたね?」 「目標うんぬんは知らないが、今の一瞬でよくわかったな。 さすがだ」 「その油断した顔をすぐに歪ませてあげるよ」 「油断? これは余裕というものだ。 覚えておけ」 ミラはそのまま先程と同じよう突撃を駆け圧倒的なまでの連撃を俺に浴びせてくる。 これが二年前の俺だったら容赦なくDBを連続で使用してる所だが、残念ながらラクサスとの戦闘の後きっちり反省を生かして身体の方も鍛え上げた。 そうそう、やられるわけにはいかない……のだが。 思った以上にミラの身体能力が高い。 そろそろ脚だけで攻撃を受けるのがきつくなってきた。 というより、何発か良いのをくらってる。 酔いのせいで少し気分も悪くなってきた。 吐く前に決着つけるか。 それにミラの心を折る必要がある。 こいつは何か呪縛のように強さを求めているように感じる……気のせいかもしれないが。 一度ミラから距離をとり、再び向かい合う形になった。 「酔ってなかったらもう少し戦闘を続けてもよかったが、さすがに気持ち悪くなってきた。 この五六式は潜在能力のDB。 人間の本来持つ潜在能力を限界まで引き出すことができる。 これは原作では使用者の体内にDBが埋め込まれており常人の2. 5倍の早さで年を取るデメリットが存在した。 しかし俺は埋め込まれているわけではなく、首から掛けられているDBを使って能力の使用をしているため、そのデメリットは無効なのだが使用後にかなりの負担が身体に掛かるという新たなデメリットがある。 しかしそんなデメリットが霞んでしまうほど強力なDBだ。 そのため手加減も大変だが敵を圧倒し心を折らせるには手っ取り早い。 「な、何をしたんだい!? ルシアの身体が」 「頼むから全力で防御してくれよ? 手加減はするが、いかんせん慣れてなくてな」 ドンッ!と大きな音が鳴り響き、周囲の大気が震えたかのように感じた。 その音の正体はミラに迫る際、地面に圧力がかかり小さなクレーターが出来た時の音だ。 あまりの速さに俺を見失ったのか、ミラは周囲を忙しなく見渡すが目視できないようだ。 俺が後ろだ、とこれから攻撃するために合図を出し防御させるよう声を発した。 条件反射のようにミラは背後から迫る蹴りに対して右腕を上げそれを支えるように左手で防御を補ったのだが。 「ぐぅぅぅ!!」 そのまま勢い良く吹き飛び木々がある場所まで吹き飛んでいった。 ミラは今の一撃で腕が使い物にならなくなったのか腕をだらりと下げている。 そしてミラが正面を向いた時には俺のつま先がミラの首元に突きつけられていた。 「チェックメイトだ。 悪くはなかったが相手が悪かった」 「……ちくしょう。 まだ鍛えたり無いっていうのかよ」 ミラが悔しそうに下唇をかみ締めていた。 何故彼女はこんなにも力を欲するのか。 ただ単純に負けることが悔しいのか、それとも俺と同類なのか。 そういえばと、エルフマンとリサーナのことを思い出した。 もしかしたら妹と弟を守りきれる力が欲しかったのかもしれない。 勘だけど。 地面を見るとポツリと一滴何かの雫が落ちてきたように濡れていた。 雨かと思ったが空を見ると清々しいほどに快晴。 では何故?と思いながらミラを見ると悔しそうに涙を浮かべていた。 少し驚き、取り乱しそうになったがすぐに心を落ち着かせ平常心を保つ。 突然女の子に泣かれると俺でも驚く。 恐らく負けた悔しさで泣いたのだろうが、俺は彼女にどんな言葉を投げかけ慰めたら良いかわからない。 エルザのときとは状況が違う。 圧倒的に力の差を見せすぎたか。 心を完膚なきまでに折ってしまった俺に原因はあるのだろう。 俺は震える体にマントを掛けてあげることしかできなかった。 彼女が今思ってること、涙を流している理由を確信できないでいたから。 だから、俺は 「俺は人の心を読めるわけじゃない。 それに悩みを聴いても解決できるかどうかもわからない」 「……」 「人に話すだけでも楽になるってよく聞くけど実際その通りだと俺は思う。 俺とミラの信頼関係はこれからだが、お互い同じギルドで戦った仲ではある。 だから、その、何ていうか」 「……ふふ、口下手だな、ルシアは」 「悪かったな。 カッコ良く慰められなくて」 でも少し楽になったよ、とミラは泣き腫らした顔で笑顔を浮かべながらそう言ってくれた。 俺が慰められてどうする。 泣いている予想はできるがその予想が当たっているかは自信はまるでない。 そんな憶測で慰めるよりも直接聞いたほうが良いと思ったんだ。 クソッこういうのは苦手だ。 俺の拙い説得のお陰かはわからないがミラは独白するかのようにポツリポツリと呟いてくれた。 「……私がしっかりしないといけないんだ。 エルフマンとリサーナは私の大切な弟と妹なんだ。 いざという時私が助けてやらないといけない。 そんな私がこの様なんてさ、あまりにも情けなくなって、あまりにも悔しくて、頑張って努力して強くなったと思ったのにルシアと戦ったら全然だもんな」 やっちまった。 安易に心を折る戦い方をした俺が招いた事態だ。 俺みたいな自分の欲のためじゃない、弟と妹のためにミラは努力してたんだ。 その努力を俺が踏みにじったのか。 ……ならば、責任をとらなければならない。 ミラが誰かギルドの仲間に頼るにはまだ時間が足りない。 入ってすぐにそこまでの信頼関係を構築できるわけないのだから。 だから安易にギルドの仲間に頼れなんて俺の口からは言えない。 しかしだからこそ、その事実を知りミラの心を折った俺だからこそ言うべき言葉がある。 口下手だがそれくらいは言える。 「俺を頼ってくれないか。 まだ全然信頼できないかもしれないが、問題が立ちふさがったとき解決できないかもしれないが、一緒に立ち向かうことくらいはさせてくれ」 「いいのか? 迷惑かけちゃうかもしれないぞ」 「問題ねぇよ。 同じギルドの仲間は家族だ。 これから互いに歩み寄っていけば良い」 顔を真っ赤にさせ泣きじゃくった顔で俺のところへ一歩づつ歩いてくる。 俺もミラのいる場所へと歩み寄っていく。 そう、お互い歩みあって月日を重ねてより絆を深めて家族になれば良い。 ミラが我慢できずにルシア!と俺の名前を叫びながら走り寄ってくる……あ、やばい酔いが 「おえぇぇぇえええええ」 「ぎゃぁぁぁあああああ」 そんな感動の場面をぶち壊し俺の意識は遠のいていった。 やっちまった……ぜ。 何だか自分が今まで悩んで苦しんだことが馬鹿みたいに感じてきた。 でもそう思えるのもルシアのおかげなのかもしれない。 大切な思い出がこれっていうのも難だけど。 ルシアの顔色を見れば顔面蒼白という言葉が最も適していると思う。 とりあえず口を拭いてあげ風通しの良い所まで運んだ。 そこは周りの木々よりも一回り大きい大木の下。 その大木のおかげで木陰になっており、辛そうなルシアの頭を持ち上げ膝枕をしてあげる。 ……エルザもルシアに膝枕なんてしたことがあるのだろうか。 というよりエルザとルシアの関係性も少し気になる。 あのエルザが絶賛してた男だからな。 私がどうせ大したことない男だろと挑発すれば烈火の如く怒り出したほどだからなぁ。 でもまぁ…… 「今なら、エルザがあんなに怒った訳も少し分かるかもな」 ルシアのサラサラな髪を手で櫛を通すようにそっと撫でる。 もぞもぞと動き、良い位置を見つけたのかそこで安定した。 ショートパンツだから少しくすぐったい。 寝顔は意外にも可愛く、戦闘の時見せていたあの獰猛な顔とはまったく違う。 本当に同一人物なのかと疑ってしまうほどだ。 指で頬を突くとうなされている。 少し面白い。 よくよく見てみると結構顔立ちは整っている。 たぶん、皆第一印象はこの凶悪な眼つきが印象的でここまで見れていないのかもしれない。 損をしているなと思いつつもその事実を知っているのは私だけでいいとも思う。 心地よい風が時たま吹き、なびく髪をおさえる。 森林につつまれ穏やかな時間が過ぎていく。 たまにはこんな時間があってもいいよな。 それにもし何かあっても一緒に助けてくれるんだろ?魔人と悪魔がタッグを組めば向かうところ敵なしだ。 私はそう呟きながらルシアの髪を撫で続けた。

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暁 〜小説投稿サイト〜: FAIRYTAIL

あんた ほど の 実力 者 が そういう の なら

1974年10月22日と23日の二日間、ちあきなおみの最初で最後のリサイタルは、東京・中野サンプラザホールで開催された。 ファンの間では「夜へ急ぐ人」とともに、ちあきなおみにしか歌えないという声が多い「ねえあんた」は、このリサイタルのために作られた書き下ろしの作品だ。 作詞はリサイタルの台本を書いた松原史朗、作曲が森田公一、プロデュースしたのはTBSの砂田実であった。 その後、このリサイタルは2枚組のアルバムとして発売になって、素晴らしい内容であったことが知られていった。 青山浩とはTBSの社員だった砂田が10年以上も使っていたペンネーム、名也なぎほも砂田の盟友だった舞台監督でオールプロデュースに所属する川名卓のペンネームだった。 それぞれが会社員であったために実名を出すわけにはいかず、さりげなくペンネームを表に出して仕事をしていたのである。 1955年に慶應義塾大学を卒業してラジオ東京 後のTBS に入社した砂田は、最初からテレビ製作部で音楽番組班に配属されて、一貫して演出とプロデューサーの仕事を行なってきた。 1960年代後半から70年代にかけては『日本レコード大賞』や『TBS歌謡曲ベストテン』、『歌のグランプリ』、そして『東京音楽祭』など著名な番組でも演出や総合プロデューサーを務めている。 テレビ放送が始まって間もない頃の1959年から60年にかけて、砂田はTBSの社員であるにもかかわらず朝からフジテレビに出社するという、ちょっと信じられない行動をとっていたことがある。 それは中学時代からの友人だったすぎやまこういちがフジテレビに入社して、『おとなの漫画』というコント番組を始めたのがきっかけだ。 ハナ肇とクレージーキャッツが人気ものになった毎日の帯番組『おとなの漫画』は、永六輔や前田武彦などそうそうたる放送作家が当初は名を連ねていた。 ところが朝6時に起きて新聞の朝刊を読んで、そこから時事ネタを探し出してお笑いの脚本を仕上げて、午前中にリハーサルをして放送するいう仕事が思いの外きつかった。 人気作家たちはみんな逃げ出したので、残った新人の青島幸男が孤軍奮闘していた。 そこですぎやまは青島の負担を減らすために、中学時代からの親友だった砂田に、会社の壁を超えて協力を求めてきたのだ。 3人は中野区鷺宮の旧制都立第二十一中学で同級生、大の仲良しだった。 砂田は昼にオンエアする生放送を現場で見届けて、午後から何食わぬ顔でTBSに出社していたという。 当然だがTBSにもフジテレビにも秘密で、そのときに作者名として使いはじめたのが青山浩というペンネームだ。 クレイジーキャッツの植木等による「なんである、アイデアル」や、同じくクレイジーキャッツの桜井センリの「金鳥のルーチヨンキ」などは、砂田が作って流行語になった有名なテレビ・コマーシャルである。 しかしそれらは青山浩で仕事をしたショクナイ(内職)だったために、「日本放送作家協会 CM作品賞」や「ACCフェスティバル金賞」を受賞しても、砂田実という名前が表に出ることは一切なかった。 越路吹雪やザ・ピーナッツ、尾崎紀世彦、五木ひろしなどのコンサートやリサイタルでも、砂田は相当数の構成と演出を手がけていた。 だが砂田にはやましい気持ちは微塵もなく、隠すこともせず堂々とショクナイに励んでいた。 なにしろ当時は人材が足りなかったので、現在のように専門職としてプロデュースや演出が決められていなかった。 だから優秀な人間には会社の枠や業界の壁を超えて、あちらこちらから声がかかってきたし、そこで良い結果を出せば本業のテレビにも仕事としてつながっていったのだ。 2016年の10月、たくさんの伝説を持つ85歳の砂田実氏にお会いして、1974年の『ちあきなおみリサイタル』について話を伺った。 ちあきなおみは不思議な歌い手でしたね。 誰もが認める実力を持ち、まだまだ歌えるにもかかわらず、はっきりとした引退を口にすることもなく、歌手であることをやめてしまいましたね。 幼い頃より米軍キャンプを回って鍛えた歌唱力と天性の素質により、1969年にデビューしたちあきは音楽シーンで大きな存在感を示し始めた。 そして1972年には「喝采」を歌って、レコード大賞を受賞している。 砂田が『ちあきなおみリサイタル』の構成と演出を依頼されたのは、「喝采」から2年後のことでどことなくいわくがありそうな雰囲気だったという。 所属事務所の社長だった吉田尚人とともにやって来たちあきは、「おはようございま~す! (ニコッ)」という、若い女性歌手に定番の挨拶をせず、寡黙というか、ただぼーっと座っているだけだった。 「変わった子だな」と思いました。 「大丈夫か?」と正直なところ、多少不安になったものです。 それに対して社長の吉田氏はユニークな人物で、坂本龍馬に心酔していて、止めない限りは何時間でも龍馬について話し続ける人でね。 なぜ龍馬の話になるのかわからないが、無理矢理にでも話題にしないと気が済まなかったらしい。 僕の偏見かもしれないが、芸能界で第一線を張っている人たちは、男でも女でもわがままで我が強く、概して性格はあまりよろしくはありません。 生き馬の目を抜くような世界にあっては、そうでなくては生きていけないからでしょう。 しかし、ちあきには全くそういうところがなかった。 TBSの音楽番組プロデューサーだった僕の番組にも、出てもらったことは数回ありました。 例えば、ちあきのほか、佐良直美、水前寺清子、和田アキ子という、当時の超売れっ子たちを配したバラエティ・ドラマ『おかしな四ツ児』(1971年4月~9月)というコメディです。 でも共演者とのおしゃべりに興じることもなく、ちあきはいつも静かに隅にたたずんでいましたね。 下積み時代を揶揄してなのか、「ちあきさん、明日はどさ回り? 大変ね」という嫌味を浴びせられても、ただ小さく薄い笑みを返すだけでしたよ。 砂田はコンサートを引き受けるに当たって、早速いつものようにレコード店に足を運んだ。 ちあきならではのカヴァー曲を歌ってもらうために、シャンソンを中心としたアルバムを10枚ほど買いそろえて、片っ端から聞きまくった。 どうしてそんな作業をするのかというと、歌い手のコンサートを引き受けたからには表現の領域を少しでも広げて、成長してほしいという基本的な姿勢でいたからだ。 砂田は構成に松原史郎を加えて、音楽監督とアレンジは宮川泰に任せることにした。 そして選びに選んだ曲目リストを作り、ちあきサイドと2回目の打ち合わせに臨んだ。 ぼくは、ちあきの新たな魅力を引き出そうと、少し欲張ったプランを提示しました。 彼女の持ち歌のほかに、シャルル・アズナヴールの「帰らざる青春」、シャンソンの名曲「ボン・ボヮヤージュ」、越路吹雪の歌唱で知られた「うちへ帰るのがこわい」、そしてアングラ界で黒衣の歌姫だった浅川マキの「かもめ」をカヴァーさせました。 さらにちあきのためのオリジナルも、4曲ほど作るという内容です。 そしてプラン通りに準備が始まり、そこで生まれたオリジナル曲のひとつが「ねえあんた」である。 心根のやさしい娼婦と惚れた客とのやりとりを一人芝居のように、歌だけで表現するというアイデアが砂田のなかで浮かんだのは、静岡県の熱海市でのことだ。

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